ランチメニューのすすめ!ミシュランの名店と旅先の地元ランチ
ランチメニュー、日替わりランチ、ランチセット。コースの中身があらかじめ決まっていて、値段も固定、しかも数時間しか出ないメニューです。僕にとってランチメニューは、一流レストランに入れるいちばん安いチケットであり、旅先では地元の人が食べている料理にいちばん早くたどり着ける方法です。プラハではランチメニューのおかげでミシュランガイドに載る店でお昼を食べていますし、海外ではランチメニューを見れば、昼に観光客向けの料理を出していないレストランがわかります。

共同の食卓、フランコ政権の政令、そして職場の食堂
今のランチメニューのルーツは、フランスのターブル・ドット(table d'hôte)、つまり「宿の主人の食卓」です。客は決まった時刻にみんなでひとつの食卓を囲み、その日に厨房が作った料理を、あらかじめ決まった値段で食べていました。今のようなレストランが生まれるずっと前、パリの宿屋や下宿ではこうして食事をしていたのです。やがてそれを押しのけたのが、客がそれぞれメニューから料理を選ぶア・ラ・カルトでした。
スペインでは、ランチメニューの形を決めたのは国でした。1964年、フランコ政権の情報観光大臣マヌエル・フラガが、レストランに「メヌー・トゥリスティコ(menú turístico)」を義務づけたのです。飲み物込みのフルコースのランチを、役所が定めた値段で出すというものでした。観光客がぼったくられないようにするための政令でしたが、このランチメニューにすっかり惚れ込んだのは、むしろスペイン人自身でした。義務がなくなったのは2010年になってから。それでもメヌー・デル・ディアは国民的な習慣として残りました。チェコのランチメニューはルーツが違います。もとになったのは職場の食堂で、社会主義時代にはソ連式に職場でそのままお昼を食べていました。

旅先で出会ったランチメニュー
忘れられないメヌー・デル・ディアがあります。ビルバオを訪れたときに入った、昼どきは地元の人でいっぱいのタベルナIñakirenのものです。手書きのメニューに、どの皿も数品から選べるスタイル。そしてテーブルにはワインがボトルごと置かれ、最後まで下げられることはありませんでした。かつてフラガの政令が定めたのは、まさにこういうランチです。今ではもう誰も義務づけていませんが、Iñakirenでは今もこうして料理を出し続けています。
ルーマニアに心をつかまれたのは、到着して最初に食べた料理でした。それもランチメニューからです。ヤシのビアホールBeraria Vecheで出てきたのは、ひき肉を棒状にして焼いたミチ。マッシュポテトのストゥンプ、マスタード、ホースラディッシュ入りのビーツのピクルスが添えられていました。ルーマニアのことは、ほかのどの国よりも早く好きになりました。なにしろ着いてまだ2時間しか経っていなかったのですから。
モーリシャスでは、ランチメニューは今もターブル・ドットと呼ばれていて、現地の観光局が専用の営業許可を出しています。フリック・アン・フラックの家族経営のレストランCreole Shackが毎日出すのは、3品のコースひとつだけ。客が選べるのはチキンカレーかエビカレーかだけで、あとは厨房におまかせです。
フランスでは、ランチメニューはフォルミュールと呼ばれます。前菜とメイン、またはメインとデザートの組み合わせで、夜よりもぐっと安いのが決まりです。リヨンでは、フォルミュールに導かれてパール・デューのオフィス街へ。観光客が足を踏み入れるとしたら、せいぜい駅へ向かう途中くらいの場所です。そこにあるビストロLa Table 101は月曜の昼、シャツ姿の会社員でいっぱいになります。最後のひと口まで、ミシュランのビブグルマンにふさわしい店だと僕は思いました。ナントでも、ビストロPicklesのランチのフォルミュールで、しっかりおなかを満たしてもらいました。

ミシュラン店のランチを、ほんのわずかな値段で
ミシュランガイドに載る店のテーブルにつくなら、ランチメニューがいちばん安い方法です。お昼には、夜になると何倍もの値段をとる同じ厨房から、3品のコースが出てきます。なかでもいちばん極端な例として記憶に残っているのは、2016年からミシュランの星を持つFieldです。コロナ禍で客足が途絶え、ランチメニューを、もう二度と見られないような値段まで下げていました。そのとき厨房からのごあいさつとして出てきたパンほどおいしいパンは、人生で一度も食べたことがありません。
レストランV Zátišíでは、ランチメニューで、これまで食べた中でも指折りの前菜に出会いました。アスパラガスを添えた塩味のフレッシュチーズのボールで、雲のようにふわふわでした。プラハでとくに好きな店のひとつMlýnecでは、ランチのコースに自家製のフォカッチャがつきます。イタリアに出しても恥ずかしくない出来で、そのうえ席からはカレル橋が見渡せます。ビブグルマンのDejvická 34では、前菜を運んできたのはウェイターではなく、シェフのトマーシュ・チェルニーご本人でした。そして旧市街広場という立地を考えれば、レストラン420のランチメニューは、僕に言わせれば無敵のお得さです。冒頭の写真の仔牛のレバーのグリルも、このランチメニューのものです。

チェコ各地のランチメニュー
ランチメニューはプラハの外でも狙う価値があります。ロジュノフ・ポド・ラドホシュチェムにある、製紙業を営んだ一族のアール・ヌーヴォー様式の邸宅Villa Rosenawでは、ランチメニューに加えて、通常メニューからモラヴィアのワラキア地方に伝わる、酸味のきいたザワークラウトのスープも頼みました。うちでしょっちゅう作っていたスープなので、つい採点が辛くなるのですが、ここのは完璧でした。フセチーン近郊のKapka resortは2025年からゴ・エ・ミヨ(Gault&Millau)に掲載されている店で、週末のランチメニューの主役はじっくり焼き上げた牛のリブでした。しかもサービスは、2025年の上半期に僕が受けた中でいちばんでした。
プラハのお店の一覧は、記事プラハのおすすめランチにまとめて、随時更新しています。
旅先でお昼をどこで食べようか迷ったら、ランチメニューがあって地元の人で満席の店を選んでみてください。わずかなお金で、その国の人が本当に何を食べているのかがわかります。ぜひ味わってみてください!