プラハのレストランPot-au-feu - 誠実なフランス料理とヤン・クラツィークの完璧なソース
流行に流されず、クラシックなフランス料理ひと筋 - そんな店がリブナー通りで13年続いています。ヤン・クラツィーク(Jan Kracík)のレストランPot-au-feuは、席数わずか35の小さな店ですが、料理の技にとことん集中すればゴ・エ・ミヨ(Gault&Millau)で3トック(コック帽)を獲得し、最優秀サービスの称号まで手にできる - それを身をもって示してくれています。

共和国広場はいつもにぎやかですが、証券取引所宮殿(Burzovní palác)の通り抜けを抜けてリブナー通りに出ると、街の空気ががらりと変わります。レストランPot-au-feuの入口は控えめで、プラハでも屈指の、味にぶれのない料理がその奥で生み出されているとは、外からはまず気づきません。
ふつうの平日のランチタイムでも、35席はすべて埋まっています。ホワイトオークと御影石の内装は居心地がよく、天井から吊るされた雲の形の大きなシャンデリアと、壁に掛かったシュルレアリスムの画家ヴィクトル・サフォンキンの絵に目を奪われます。堅苦しさはなく、肩ひじ張らずに食事を楽しめる空間です。

2025年7月、ゴ・エ・ミヨはチェコのレストランのサービス評価を発表しました。Pot-au-feuはそこで、チェコ全土で第1位に輝いています。押しつけがましくないことを大切にしてきた小さな店にとって、これは長年貫いてきた方針が実を結んだ結果です。ここの心地よく行き届いたサービスは、複雑なマニュアルから生まれたものではありません。支えているのは一人ひとりに寄り添う接客と、顔ぶれの変わらないチームです。
8年間の修業の旅と、ほろ苦い帰国
ヤン・クラツィークが自分の店を持つまでには、8年にわたる海外での修業がありました。料理の基礎を身につけたのはクルコノシェ山地の厨房で、母親からはキノコのキセロ(サワー種を使ったチェコの酸味のあるスープ)の作り方を教わりました。そこからミュンヘン、スイス、アイルランド、フランスへと渡ります。転機となったのは、アイルランドの5つ星リゾートMount Juliet Conradでの仕事でした。そこのレストランLady Helenで、フランス人シェフが食材をどう扱い、食材の力をどれほど信じているのかを学んだのです。

続いて、ブルゴーニュのボーヌとランスにある、フランスの美食地図の礎ともいえる名店で修業を重ねました。ところがチェコに戻ると、当時の国内の飲食業界の現実が待っていました。彼の基準を理解しないオーナーたちとぶつかり、プラハの店を何軒も渡り歩いた末にたどり着いたのがキンスキー宮殿です。そこでの4年間で、厨房を仕切り、メニューを組み立て、仕入れ先とのやりとりまで自分ひとりでこなせると気づきました。街の中心の小さなスペースと最小限のチーム - 自分の店の構想がはっきりした形になったのは、2013年のことです。
プラハではなかなか出会えないクラシック
店名のPot-au-feu(ポトフ)は「火にかけた鍋」を意味するフランスの伝統的な言葉で、クラツィークの料理をまさに言い表しています。近道はせず、昔ながらの手順と時間をかけるだけ。その結果、皿の上には、軽やかなコンセプトに押されてプラハの店から少しずつ姿を消しつつある技術が息づいています。

クラツィークの料理の要はソースです。深みも、なめらかさも、力強さもあり、何時間もかけて煮詰め、ブイヨンを丁寧にとっていることが伝わってきます。仔牛の腎臓のボルドレーズソースは、内臓料理のお手本のような一皿。下処理は完璧で、ワインをしっかり効かせたソースが味の土台になっています。仔牛の胸腺肉とモリーユ茸のクリームソースは、クラツィークの名を知らしめた看板料理です。胸腺肉の繊細な食感に、春のキノコの土の香りと濃厚なクリームのソースが重なり、まさにフランス古典料理のお手本といえます。

メインディッシュも同じ路線です。ブフ・ブルギニョンとじゃがいものピュレは、ほっとする家庭料理を技術の極みまで高めた、まさに好例です。
プラハで珍しいのが仔牛の頭肉。この独特な部位を丁寧に仕上げ、冷たいグリビッシュソースにコルニッションとバターで和えた野菜を添えて出す店は、いまではめったに見つかりません。
デザートはひと品だけにしました。もうそれ以上はお腹に入らなかったのです。クレープ・シュゼットは、グラン・マルニエの温かな余韻がはっきり残ります。フランスのクラシックへのオマージュを締めくくる、完璧なフィナーレでした。

自分たちのルールで営む店
Pot-au-feuの営業スタイルは、ふつうの店の常識とはかなり違います。営業は火曜から金曜のランチとディナー、土曜は隔週でディナーのみ。毎年夏には1か月近く店を閉めます。料理をつくり、店を回し、フランスから食材を取り寄せ、お客さんと言葉を交わす - そのすべてをひとりの人間がこなせる規模に合わせた形なのです。


2026年1月に3トックと20点満点中15点を改めて与えたゴ・エ・ミヨの調査員は、レビューのなかで「もう少し革新性があってもいい」と指摘しています。でも、お客さんがまさにクラシックな手法の確かさ、完璧なソース、変わらない店の雰囲気を求めて訪れる場所に、革新が本当に必要なのでしょうか。僕には疑問です。

Pot-au-feuは、伝統に忠実であることを店の個性として貫き、しかもそれを見事に体現しています。
Pot-au-feu