プラハのレストランDejvická 34 - ランチメニューと遅めのディナー
2日後にフィレンツェへ出発するので、その前に舌のコンディションを整えておく必要がありました。そこで味覚を、プラハのデイヴィツェ地区での強化合宿に送り込むことにしました。
レストランDejvická 34は、シェフ兼共同オーナーのトマーシュ・チェルニー(Tomáš Černý)がイタリア料理を出す店で、2021年秋から途切れることなくミシュランのビブグルマンに選ばれ続けています。この店について書くのは今回で3回目です。1回目はシェフズテーブルでランチをいただき、2回目は人気シェフ、ズデニェク・ポールライヒ(Zdeněk Pohlreich)のテレビ番組のレストラン対決でこの店が優勝した回が放送される前日に訪れました。今回はランチメニューに加えて、アラカルトからもいくつか選んでいます。

ビブ獲得5年目、ホールには変わらぬ顔ぶれ
前回の訪問から、受賞歴はさらに増えました。ミシュランガイドが初めてチェコ全土を対象にしたセレクションで、Dejvická 34はビブグルマンを守りました。ガイドがプラハだけを評価していた時代からビブを保ち続けているのはわずか3軒で、ここはそのひとつです。しかも国内18軒のビブグルマンのうち、ミシュランがイタリア料理として掲載しているのはこの店だけ(チェコのミシュランレストランの一覧もどうぞ)。ゴ・エ・ミヨ(Gault&Millau)からは2年連続で3トック(コック帽)を獲得し、トマーシュ・チェルニーは2024年のチェコの料理賞「ズラティー・クハシュ(金のシェフ)」の投票で選ばれました。
それ以上にうれしかったのは、変わっていないものでした。ミシュランの調査員はこの店を「やや迷路のよう」と評していますが、僕たちは迷うことなく、以前も座ったダイニングの一段高いスペースへ向かいました。そして何より、ホールで迎えてくれたのは、何年も前とほとんど同じ顔ぶれでした。料理は入れ替わっても、人はまったく変わっていません。そのことは、ガイドブックのお墨付きと同じくらい、この店の良さを物語っています。

ランチメニューはアンズタケ、ウサギ、斜め切りのシュトゥルーデル
ここのランチメニューは毎週新しく書き替えられます。最初の一皿は、ソテーしたアンズタケとブッラータ、パンプキンシードオイルを合わせたクリーミーなきのこのスープでした。軽めのメインとしても通用しそうなボリュームで、クリームには思いがけない酸味があり、それがきのこを心地よく軽やかにしていました。ウサギのシュニッツェルには、じゃがいもとピキージョペッパー、モリーユ茸のラグー、やさしいパプリカソースが添えられていて、ジューシーなうえに写真で見るより大きめでした。


イタリアンなのに、なぜウサギのシュニッツェルやアップルシュトゥルーデルが?と思われるかもしれません。地図を見れば納得です。イタリアはオーストリアと国境を接していて、南チロルではシュトゥルーデルが伝統食品として公式に登録されています。ウィーナーシュニッツェルは逆方向に、ラデツキー元帥とともにミラノから伝わったという伝説がありますが、これは否定されています。根拠とされる文書を、ウィーンの公文書館で見つけた人は一人もいないのです。しかもトマーシュ・チェルニーはイタリアでもオーストリアでも経験を積んでいます。クルミとバニラソース、ラズベリーを添えたアップルシュトゥルーデルを、料理人は斜めに切り分けてくれました。わざとかどうかはわかりませんが、少し斜めの断面のおかげで、生地とリンゴの層がまっすぐ切るよりきれいに見えました。

夜のメニューをお昼にいただく
アラカルトからは、熟成させた牛ネックのタルタル、タコ、チョコレートケーキを選びました。タルタルにはキュウリが肉に直接混ぜ込まれていて、しかもたっぷり。これが思っていた以上にうまくはまっていました。皿には、控えめな名前からは想像できないほど面白い自家製トマトケチャップ、黒ニンニクのマヨネーズ、そして「聖ヨハネのクルミ」が添えられていました。聖ヨハネの日のころに収穫した未熟なクルミを、水にさらして苦みを抜き、スパイス入りのシロップに漬けたものです。タコはやわらかく、オマールとコニャックのソースは見事な味つけで、この手のソースにありがちな重たさもありません。そしてキクゴボウとダッテリーノトマト、タジャスカオリーブのラグー。これ以上タコに合う付け合わせは、もう思いつきません。続くヌガーのクレムーとラズベリーを添えたチョコレートケーキで、その日のデザート対決は引き分けになりました。これとシュトゥルーデルのどちらかを選ぶなんて、僕にはできません。
あとでメニューを見て気づいたのですが、僕たちは知らないうちに「Pozdní dejvická večeře(デイヴィツェの遅めのディナー)」を自分たちで組み立てていたのでした。20時30分の予約で頼める1,450コルナ(約11,000円)の夜のセットメニューで、テーブルは22時まで、グラスのプロセッコと水が料金に含まれています。僕たちはそれを、お昼のうちに一皿ずつばらして食べたわけです。



ベートーヴェンのリースリングと気になるお値段
ワインはリースリングを0.125リットルのグラスでいただきました。ノンアルコールの一杯(195コルナ/約1,500円)は、ウィーンのワイナリー、マイヤー・アム・プファールプラッツ(Mayer am Pfarrplatz)のもので、その建物には1817年にベートーヴェンが住んでいました。香りが残るよう、完成したワインから真空状態でアルコールを飛ばしています。ノンアルコールワインはいまもかなり難しいジャンルですが、このボトルはなかなかの健闘ぶりでした。2杯目(255コルナ/約2,000円)は、モーゼル川を見下ろす赤色スレートの斜面から生まれたクレメンス・ブッシュ(Clemens Busch)のビオディナミのリースリングで、モーゼルに期待するとおりの味わいでした。デザートには、甘口ワインに目がない僕はやはり我慢できませんでした。ヴァイラ(G.D. Vajra)のモスカート・ダスティ(0.1リットルで190コルナ/約1,500円)はアルコール度数5%、糖分は1リットルあたり130グラムあるのに、よく冷えていて、チョコレートと合わせても甘すぎると感じませんでした。


では、お値段は?3品のランチメニューは950コルナ(約7,300円)、デザートなしなら790コルナ(約6,100円)、前菜なしなら750コルナ(約5,800円)です。メインだけなら、肉か魚で620コルナ(約4,800円)、パスタかリゾットで490コルナ(約3,800円)。ミシュランの星付きレストランのランチと比べれば、これはまだ「ランチの値段」であって、投資ではありません。しかも量はテイスティングメニューのような少なさとは無縁です。味覚の強化合宿は大成功で、立場が逆転してしまいました。基準を作ったのはデイヴィツェのほうです。次はフィレンツェの番です。
Dejvická 34