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プラハのレストランLa Veranda - 料理本がずらりと並ぶ書棚の隣でテイスティングメニュー

ダン・シュパニヘル チェコ 更新日 コメントはまだありません

La Verandaで案内されたのは書棚のすぐ横の席でした。あれが偶然だったのか罠だったのか、今でもわかりません。ひじのすぐ後ろの棚には食の本がぎっしり。古い年度のミシュランガイドに、ヨーロッパ中の料理本。僕はコースの合間に何度も手を伸ばしてしまいました。ちょっとだけロブションを、ちょっとだけThe Geometry of Pastaをめくって、もう一度だけ分厚い『Pražská kuchařka』(プラハの定番料理本)の重みを確かめて…。

La Verandaはプラハのヨゼフォフ地区にあるレストランで、2002年から続く、チェコのファインダイニングを代表する一軒です。地中海をベースにしたモダンなヨーロッパ料理を、チェコの小さな生産者の食材で作っています。僕たちのお目当てはワインペアリング付きのテイスティングメニュー。そして料理が運ばれてくると、書棚には思いもよらないライバルが現れました。

La Veranda。扉にミシュランの表示がある店の入口。
La Veranda。扉にミシュランの表示がある店の入口。

じゃがいもの皮から、ロクシェにのせたタルタルまで

コースは厨房からの贈り物で始まりました。アミューズ・ブーシュは直訳すると「口を楽しませるもの」。客ではなくシェフが決める小さな一品です。この日はディルをあしらった小さなタルトレットが、揚げたじゃがいもの皮の上にのって出てきました。タルトレットの中身が何だったのかは、正直に言うとお伝えできません。土台のほうにすっかり心を奪われてしまったからです。この皮が、まったく文句のつけようがない味でした。サクッと軽く、繊細で、いくらでも食べられそうでした。ほかの店ならゴミ箱行きになる食材が、ここではそこらの高級食材よりも見事な仕事をしていました。

La Veranda。アミューズ・ブーシュ、じゃがいもの皮にのせたディルのタルトレット。
La Veranda。アミューズ・ブーシュ、じゃがいもの皮にのせたディルのタルトレット。

最初のコースが来る前に、自家製のパンもテーブルに届きました。白っぽい天然酵母の丸パンと、色の濃いバゲット、それにバターです。パプリカをふりかけたバターは小さなことですが、厨房の心配りがよく表れています。

最初のコースは熟成牛のタルタル、ロクシェ、トリュフ。熟成肉を使うとタルタルはやわらかくなり、味も凝縮して、ほのかにナッツのような香りが出ます。ドライエイジングの間に酵素が働いて、本来ならスパイスで補うところを肩代わりしてくれるのです。しかもこのタルタルは、味つけそのものも見事でした。それでも僕がいちばん惹かれたのはロクシェのほうです。ロクシェはじゃがいもの薄焼きパンで、僕にとってはガチョウのローストに添えるものというイメージでした。それがここではタルタルの台になっていたのです。形はしっかり保っているのに、しっとりとやわらか。カリッとはしていない、ただただ見事なやわらかさでした。この食感を言い表す言葉をひと晩じゅう探しましたが、とうとう見つかりませんでした。

La Veranda。トリュフをのせた、ロクシェの上の牛肉のタルタル。
La Veranda。トリュフをのせた、ロクシェの上の牛肉のタルタル。

2皿目は鴨のレバーとフォアグラのタルト、プラム、青クルミ。フォアグラは太らせた家禽の肝臓で、脂肪分は80%前後にもなります。普通のレバーなら数%です。このタルトは、普通の鴨レバーと濃厚なフォアグラの両方を組み合わせていました。でも皿の上でいちばん面白かったのは青クルミです。聖ヨハネの日(6月24日)のころ、まだ熟す前に収穫したクルミをスパイス入りのシロップに漬け込み、1年半から2年かけて熟成させたもので、その期間はペアリングのワインの多くが樽で過ごす時間よりも長いのです。チェコの昔ながらの保存食が、ミシュラン掲載店の皿にのっていました。

La Veranda。プラムを添えた鴨のレバーとフォアグラのタルト。
La Veranda。プラムを添えた鴨のレバーとフォアグラのタルト。

3皿目でメニューは野菜に切り替わりました。ラタトゥイユを詰めたパプリカ、燻製ナス、パプリカのソース。肉を使わない唯一の一皿ですが、ヘルシーさのための箸休めでは決してありません。

La Veranda。ラタトゥイユを詰めたパプリカと燻製ナス。
La Veranda。ラタトゥイユを詰めたパプリカと燻製ナス。

カレンダさんのマスと、マレチコヴァーさんの鴨

La Verandaのメニューには、生産者の名前がまるで共著者のように記されています。僕はこれが気に入りました。4皿目はカレンダさんのサーモントラウト、ローストしたカリフラワー、レーズン、ブール・ブラン。ブール・ブランはロワール地方生まれのバターソースです。言い伝えによると、料理人のクレマンス・ルフーヴルがカワカマスのソースに卵黄とエストラゴンを入れ忘れたことから偶然生まれたのだとか。ここではピンク色のフィレに、さらにイクラとチャイブが添えられていました。

La Veranda。ブール・ブランとレーズンを添えたマスのロースト。
La Veranda。ブール・ブランとレーズンを添えたマスのロースト。

5皿目はマレチコヴァーさんの鴨胸肉、カシスを合わせたビーツのピュレ、クルミ、カシスのソース。皿の上には皮をこんがり黄金色に焼き上げたピンク色の鴨肉と、丸くくり抜いたビーツ、そして薄切りのビーツを小さな円すい形に巻いたものがのっていました。鴨とビーツとカシスはコントラストで勝負する組み合わせです。ピュレの土っぽい甘さに、カシスの酸味をぶつけています。定番のクネドリーキもザワークラウトもなしで成立するメインディッシュでした。

La Veranda。ビーツのピュレを添えた鴨胸肉。
La Veranda。ビーツのピュレを添えた鴨胸肉。

デザートは大麦のクレムー、ビーツのソルベ、サワーチェリーのピクルス。クレムーはフランス菓子のスタイルのひとつで、ムースより濃密で、プリンよりなめらかです。それを大麦で作るのはシェフならではの発想で、チェコのありふれた穀物をパリ仕立てにしたわけです。ビーツがメニューに登場するのはこれで2度目。今度はソルベになっていて、デザートの中で僕がいちばん惹かれたのがこれでした。ビーツのソルベと聞くと珍しく、ちょっと怪しげにさえ思えるかもしれません。でも冷たく澄んだ姿でこそ、ビーツは本領を発揮します。果物ではなく根から生まれる、土っぽくて丸みのある甘さに、かすかなミネラル感。フルーツのソルベとは違う爽やかさで、これだけで食べたいと思うほどおいしかったです。最後にサワーチェリーのピクルスが、デザートをきりっとした酸味で締めくくってくれました。

La Veranda。サワーチェリーのピクルスを添えた大麦のクレムー。
La Veranda。サワーチェリーのピクルスを添えた大麦のクレムー。

ワインペアリング - フストペチェからソーテルヌへ

ワインは各コースに100ml、デザートには50mlずつ注がれます。セラーはその間にヨーロッパをひと巡り。モラヴィアのワインが3本、ドイツ、イタリア、フランスがそれぞれ1本です。タルタルに合わせて最初に開けたのは、ワイナリー、ファビグ(Fabig)のキュヴェ「Auspitz」。Auspitzはフストペチェという町の歴史的なドイツ語名です。フストペチェの若いワイナリーが、この名前で地元の町に敬意を表しています。グラスに注がれたのは、グリューナー・ヴェルトリーナーとソーヴィニヨンのフレッシュなブレンドでした。

La Veranda。ワインペアリング付きのテイスティングメニュー。
La Veranda。ワインペアリング付きのテイスティングメニュー。
La Veranda。モラヴィアのワイナリー、ファビグのキュヴェ「Auspitz」。
La Veranda。モラヴィアのワイナリー、ファビグのキュヴェ「Auspitz」。

フォアグラにはマルクス・モリトール(Markus Molitor)の「Riesling Haus Klosterberg」。ほぼすべての畑をリースリングに捧げ、大きな木樽で自然発酵させるモーゼルのワイナリーです。脂の多いレバーにモーゼルのリースリングは定評のある組み合わせで、その酸がレバーの脂をきちんと抑えてくれます。パプリカの詰め物には、コルテーゼ1品種だけを育てるピエモンテの家族経営のワイナリー、カステッラーリ・ベルガリオ(Castellari Bergaglio)の「Gavi Salluvii」が合わせられました。

La Veranda。モーゼルのワイナリー、マルクス・モリトールの「Riesling Haus Klosterberg」。
La Veranda。モーゼルのワイナリー、マルクス・モリトールの「Riesling Haus Klosterberg」。
La Veranda。ピエモンテのワイナリー、カステッラーリ・ベルガリオの「Gavi Salluvii」。
La Veranda。ピエモンテのワイナリー、カステッラーリ・ベルガリオの「Gavi Salluvii」。

マスを支えたのは、スロヴァーツコ地方のノヴィー・ポドドヴォロフにあるスーカル(Sůkal)家の遅摘みシャルドネで、フレンチオークの樽で熟成させたもの。鴨には、パーラヴァ丘陵のふもとのドルニー・ドゥナヨヴィツェにあるワイナリー、ショマン(Šoman)のカベルネ・ソーヴィニヨン&メルローのキュヴェが合わせられました。注がれた6本のうち3本がモラヴィアのワインで、モーゼルやピエモンテと並んでも少しも引けを取りませんでした。

La Veranda。モラヴィアのワイナリー、スーカルのシャルドネ「Kukvička」。
La Veranda。モラヴィアのワイナリー、スーカルのシャルドネ「Kukvička」。
La Veranda。モラヴィアのワイナリー、ショマンのカベルネ・ソーヴィニヨン&メルロー。
La Veranda。モラヴィアのワイナリー、ショマンのカベルネ・ソーヴィニヨン&メルロー。

デザートに注がれたのは、シャトー・ダルマジャン・デ・ゾルム(Château d'Armajan des Ormes)のソーテルヌ。プレニャック村の貴腐ワインで、一族の言い伝えによれば、その歴史は1565年のカトリーヌ・ド・メディシスの訪問にまでさかのぼります。記録に残る最初の瓶詰めは1898年です。大麦のデザートに合わせたソーテルヌは、フストペチェの「Auspitz」で始まったペアリングを、見事に締めくくってくれました。

La Veranda。ボルドーのワイナリー、シャトー・ダルマジャン・デ・ゾルムのソーテルヌ。
La Veranda。ボルドーのワイナリー、シャトー・ダルマジャン・デ・ゾルムのソーテルヌ。

パリ通りから数歩のヴェランダ

こんな夜には、店そのものも欠かせない要素です。La Verandaは2002年、レストラン経営者のユーリー・コレスニク(Jurij Kolesnik)が開いた店です。コレスニクはプルーホニツェのレストランBabiččina zahradaも経営しています。入口のガラスには、セレクテッドレストランのミシュランプレートが誇らしげに掲げられています。プラハのテイスティングメニューの店の中で、La Verandaは老舗らしい、温かく迎えてくれる一軒です。エリシュキ・クラースノホルスケー通りの同じ場所で20年あまり。パリ通りや旧市街広場からもすぐです。

La Veranda。メインダイニングのセッティングされたテーブル。
La Veranda。メインダイニングのセッティングされたテーブル。

ミシュランは店内をイタリアの田舎家の一角のようだと評していますが、まさにそのとおりです。木のぬくもり、葉の柄が入った布張りの椅子、花柄の小さな肘掛け椅子、小さな花瓶に挿したチューリップ。デザイナーズのミニマリズムにありがちな冷たさはまったくありません。これほどくつろいで快適に過ごせた店はめったにありません。僕が知っているプラハのレストランの中でも、特に居心地のいい一軒です。窓からは聖霊教会が目の前に見え、窓辺には花が飾られています。夜の明かりに照らされたその眺めは信じられないほど美しく、料理やすぐ横の書棚と同じくらい僕の心をとらえました。

La Veranda。ダイニングとバーカウンター。
La Veranda。ダイニングとバーカウンター。
La Veranda。店の窓から見た聖霊教会。
La Veranda。店の窓から見た聖霊教会。
La Veranda。店のすぐそばでライトアップされた聖霊教会。
La Veranda。店のすぐそばでライトアップされた聖霊教会。

離れがたい書棚

書棚のことはもう少し書かせてください。ひと晩じゅう僕の気を引いていたのですから。これはただのインテリアではありません。ミシュランやゴ・エ・ミヨ(Gault&Millau)の各年度版、『Gastromapa』、『Pražská kuchařka』、ロブションのFrench Regional Food、The Geometry of Pasta。料理を作るだけでなく、食について読む人の書棚です。隣に座ったら最後、もう勝ち目はありません。この本、次はあの本、さらに向こうの本と、手に取ってページをめくりたい誘惑がずっと続きます。それが楽しそうだと思ったら、予約のときに書棚の近くの席をリクエストしてみてください。料理に集中したいなら、少し離れた席のほうがいいでしょう。

La Veranda。『Pražská kuchařka』が並ぶ書棚。
La Veranda。『Pražská kuchařka』が並ぶ書棚。
La Veranda。食の本でいっぱいの書棚。
La Veranda。食の本でいっぱいの書棚。
La Veranda。店の書棚にあったロブションの『French Regional Food』。
La Veranda。店の書棚にあったロブションの『French Regional Food』。
La Veranda。店の書棚にあった『The Geometry of Pasta』。
La Veranda。店の書棚にあった『The Geometry of Pasta』。

お会計とサービス

サービスはとても感じがよかったです。6皿の料理と6種類のワインが次々とテーブルに運ばれてくる店では、サービスは脇役どころか体験の半分を占めます。テイスティングメニューは2,150コルナ(約16,500円)、ワインペアリングは1人1,385コルナ(約10,500円)でした。この夜には弱点がひとつもありませんでした。じゃがいもの皮からロクシェ、大麦のデザートまで、一度もつまずきがなかったのです。店を出るのは、すぐ横のあの書棚から離れるのと同じくらいつらいものでした。La Verandaを味わうには、ひと晩ではとても足りません。

La Veranda

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ダン・シュパニヘル

ダン・シュパニヘル

僕はダン。屋台の一皿からミシュランの星まで、自分の舌で確かめたものだけを書いています。おいしいもののために世界の半分を旅して、ありとあらゆるものを - ときには、とんでもないものまで - 試してきました。

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